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新型水陸両用車の調達に動く米海兵隊

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アメリカ海兵隊にとって、特定の車両や装備を意味せずとも、水陸両用車はなくてはならない装備である。海兵隊の任務と使命とは、海上から敵が守る沿岸に強行上陸し、後続の部隊のために橋頭堡 (きょうとうほ) を築くことである。しかし、過去15年間の「テロとの戦い」では、このような敵前上陸作戦が行われることはなかった。もちろん、このような任務や作戦が全くなくなるというわけではないため、海兵隊は新型水陸両用車の開発に着手した。

海兵隊が新型車両の開発を決定した背景には、歩兵兵器の飛躍的な進歩がある。敵前上陸作戦で最も有名なものはノルマンディー上陸作戦であり、オハマ海岸の激闘でアメリカ軍は多数の戦死者を出した。しかし、膨大な犠牲者が出た原因は、ドイツ軍機関銃陣地が優れていたのではなく、米軍が上陸した地点が計画していた上陸地点より3キロほどずれていたため、敵陣地の把握に時間がかかったためである。いかに機関銃陣地を精緻に組んだとしても、イナゴの大群のように押し寄せる米兵にドイツ軍はなす術もなかった。機関銃を除けば、沿岸を防備する兵器は命中精度の悪い小口径の大砲しかなかったのである。

時が流れ、兵器の研究開発が進み、陸上兵士の持つ兵器は、機関銃だけでなく対戦車ミサイルが加わった。機関銃では、上陸用舟艇を貫通することはできなかったが、対戦車ミサイルならば、1発で舟艇を破壊し、搭乗している2個小隊を全滅させることができる。これにより、兵士がイナゴの大群のように展開する前に、敵を撃退することができるようになったのである。

つまり、上陸用舟艇に求められる機能が大きく変わったのだ。従来は兵士を沿岸まで送り届けるだけであったが、現在の上陸作戦では、兵士を沿岸に展開させた後、海岸を確保して前進し、兵員と共に戦う攻撃の拠点となることが求められるのである。
海兵隊が求める次世代上陸用舟艇の要件は、以下の通りである。

・海上移動・作戦能力が沿岸から12マイル(約18キロ)
・海上移動速度は、時速45マイル(約70キロ)
・上陸後の自走移動距離は、300マイル(約450キロ)以上

海上での以上距離が大幅に伸張された理由は(従来は3キロほど)、やはり対戦車ミサイルの性能が飛躍的に上がったことである。今から20年前の対戦車ミサイルの射程が約3キロ程度だったのに対し、現行のミサイルは5キロ程度、また破壊力も向上している。これが何を意味するかというと、上陸用舟艇が2キロしか海上を進めないとすると、舟艇を格納している輸送艦も沿岸2キロまで接近しなければならず、つまり対戦車ミサイルの射程に入ってしまうことになる。対戦車ミサイルの破壊力が向上した現在では、その輸送艦ですら沿岸からの攻撃対象になり、場合によっては、輸送艦1隻が撃沈され、搭乗している2-3中隊が全滅することになる。

新型水陸両用車に求められる性能は、搭載できる兵士の数を減らす一方、活動距離を6倍伸ばし、車両から攻撃を必要とする前の12マイル(18キロ)まで移動できることである。キャタピラ駆動から車輪駆動になり、現在、脅威となっている地雷や簡易爆弾(IED)に対する防御も備えることも求められる。

このような海兵隊の事情を反映して、BAEシステム社およびSAIC社は、それぞれ新型水陸両用車の開発契約を海兵隊と結んだ。国防総省によると、この計画は水陸両用車1.1計画といい、技術・製造・開発に関わる契約額の総計は、2億5550万ドル以上となるという。

入札に名乗りを上げた企業であるBAE社とSAIC社は、それぞれ16種(1億370万ドル)、13種(+3)(1億2150万ドル)のプロトタイプを提出し、来年の第3四半期に性能試験が行われる。

選定された車両は、向こう数十年間、海兵隊に採用される予定である。特に太平洋地域での運用が多くなるだろう。

海兵隊の近代化戦略に携わるフリードマン大尉は、
「将来的に、従来のような敵前上陸作戦は実行不可能になるだろう。そのとき、上陸用舟艇にグレーネードランチャーや50mm機関銃などを搭載した、より攻撃的機能が求められるだろう」と述べている。

U.S. Marines 2015/11/24
BAE Systems 2015/11/24
Text: 友清仁 - FM201512

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